悪酔いしそうな情熱が水飛沫あげてゆらり、波立った

主観と色眼鏡で語る「ピンクとグレー」の感想です。ネタばれもいいとこなのでたたみます。きもちわるいです。

ピンクとグレー

ピンクとグレー

まずは処女作の上梓おめでとうございます。まさか本当に小説を出すとは思わなかったから驚いたけれど、とても喜ばしいことです。正直、すごく怖かったですけどね。現役のアイドルである彼が小説を出すと聞いて真っ先に頭をかすめたのは齋藤智裕こと、水嶋ヒロの「kagerou」でした。
KAGEROU

KAGEROU

ミーハー心で読んでみたのですが、私には高校生の同人誌のようにしか思えなかった。アイディアは悪くないのだけれど、それに文章力がついていっていないという印象なんです。せっかくのアイディアを作品として昇華するだけの実力に欠けるというか。だから、シゲアキには申し訳ないけれど今回の小説もそうなったらいやだな、怖いなっていうのがどうしてもあって、実際に購入したのも発売日をいくらか過ぎてからでした。

結論から言います。
おもしろかったです。彼の業の深さにやられました。目鼻立ちのはっきりした整った顔、青学法学部卒、エリートといってもいいバレーユニでのデビュー。それだけの高スペックを持ちながらどこか暗い影を落とす彼の内側は私が思っていたよりもずっと深かった。小説に関する一連のインタビューの中にも彼の業を表しているような言葉がありました。それにすごく衝撃を受けたんです。

自分の一番の強みは、人が売れていく瞬間を間近で見てきたこと
ダ・ヴィンチ3月号/メディアファクトリー

目からうろこだったし、彼があのユニットにいて感じていたことの一片を垣間見たような気になりました。『山下智久』と『錦戸亮』という存在は彼に何を与えたのだろう。そして何を奪ったんだろう。*1特に山下さんとの関係性は個人的にずっと気になっているところでもあるんです。私はシゲアキの素晴らしいところはメンバー全員とまんべんなく仲がいいことだと思っています。シゲアキの口から聞くメンバーの話が好きだし、その立ち位置もおもしろいなって思う。これは余談だけど、メンバー以外に仲がいい事務所の人が嵐の大野さんやエイトのまるちゃんっていうのもすごく不思議で、すごくおもしろいところでもあります。*2まあ、それはいいとして。メンバーとして、友人として、付き合う中で見てきた“アイドル”というもの。フィクションの世界で一人歩きする自分たちの姿。もちろん小説はエンターテインメントだから色は付いているけれど、それでもシゲアキはこんな風に芸能界やアイドルの姿を見ていたのかと思うとそれだけで論文が書けるぐらい興味深い。本人があまりアイドルというか芸能界には不向きそうな性格なのもまたそれを助長させるんですよね。*3

あとは構成のうまさにびっくりした。もっと嫌味なぐらいのスマートさで突き進んでいくんだろうと思っていたから、冒頭の拙さに「なんだかわいいとこあんじゃん!」とか思っていたんですよね。でも、読み終わった今、冒頭の稚拙さも計算だったのかと思うと鳥肌が立つ。あれはりばちゃんの手記だから。幼い時分からずっとごっちの隣にいて、ある意味、最期を看取った彼の言葉。その結末を知るとまた最初から読みたくなるし、感じ方がまったく変わるから完全にしてやられました。最初はリズムがのっぺりしているのに、中盤からの加速の仕方もすごかった。きっと、すごく考えたんだろうなって思うともう愛しい気持ちでしかなかったです。

ごっちの自殺後にりばちゃんがとった行動をシゲアキは『美しい奇行』*4だと評しましたが、私は全くそうは思いません。ふつうではないけれど、奇行でもないな、と。少し行きすぎてはいるけれど、ごっちに感化されてしまっただけっていう気がします。ゆっくりと時間をかけて構築されていったりばちゃんの狂気と初めからそこにあったごっちの狂気。誰の心にも狂気は存在するけれど、ごっちは初めから自分の持つ狂気が人のそれよりずっと大きなものであることを知っていたんだと思う。それが少しずつりばちゃんの心を侵していってしまった。曖昧な世界の境界線上にいたりばちゃんを自分と同じところに引き込むためにごっちはあんな行動に出たような気がしてならないんです。2人ともないものねだりをしていることに気付かないまま、お互いの首を絞め合って、結局はごっちの狂気にりばちゃんが飲み込まれてしまったというか。そういう印象でした。

ベタといえばベタだし、結末も読めてしまいました。それでも現役アイドルであるシゲアキがこれを書いたということはすごく大きいなと思いますし、リアルであるべきところの躊躇のない生々しさはシゲアキにしか書けないものだと思う。稚拙さや青臭さもまた一興でしょう。むずがゆくて、恥ずかしくて「うわああああああ!!!!」って本を投げ出しそうになったりもしたけど笑。影響を受けたものがわかりやすいのも可愛いなって思えたので個人的にはOKだな、と笑。

私はジャニオタで、おたくの中でも彼のことを人より好いているので正当な評価はどうしたってできません。そこに色が付いてしまう。だから、シゲアキやアイドルのことを知らない人がこれを読んで、正当な評価をしてくれたらこれ以上に嬉しいことなんかないなって思います。絶賛なんかしなくていい。ただ読んでみてほしい、それだけ。メインストリームのど真ん中を走るジャニーズのアイドルの中にもこういうサブカルマインドの子がいるって知ってもらえたらいいなあ。サブカルに憧れるアイドルだよ!意味わかんない!自分のラジオで在日ファンクかけるとかほんとよくわからん!じゃにおたポカーンだよ!お粗末さまでした。

*1:ごっちに2人を重ねているわけではないけども。というか登場人物に誰の姿も重ねていない

*2:とんでもないところと仲がいいよね…いや、二人とも大好きですけど

*3:そもそもが生きにくい性格してるなーというのもある

*4:こういう言葉のセンスは中2病発揮してますね